半年間の活動を振り返って

 今年の1月26日、ガンジーの『非暴力』の思想による『市民の不服従』の抵抗運動に倣って、11人の発起人が集まって発足させた『自衛隊イラク派兵反対ハンスト・リレー・マラソン』が、7月26日で、半周年を迎えることとなりました。

 この半年の間に、以下の方々がハンストに参加されました。最初に、それらの方々のお名前を列記し、この場を借りて、深い感謝の意を表明したく思います。

 tutti、高橋如安、藤森治子、柴田響子、飯村孝夫、池宮正信、池宮智子、香取俊介、渡辺裕文、山川トモ子、能瀬佳広、山下美樹、山本淑子、前田尚美、三宅久美子、Maeda Fusayo、従野寿美恵、染谷学、白岡順、青、今井きよ、世戸玉枝、村上美樹、伊藤啓子、かしいよしこ、小栗山正美、高桑順一、奥田恵二、HS、佐々木尚樹、上原善之、松浦貴子、中本浩、奥田万理、高岡忠洋、箱石桂子、川畑陽子、佐藤伊亮、染谷久代、粥川勝、藤本貴、市川廉太郎、山口直樹、津田新吾、前田悠、平木収、宮崎志乃、高山和彦、Kondo Kazuko、冨川元文、平田かおる、矢原尚子、椿井克子、金子愛、高岡佐代子、羽鹿秀仁、峪野徹、井西由紀子、Y.K. 、田神良、西村剛、土井アツコ、日野進一郎、池田幹子、MS、白神素子、鯉沼孝至、generation green 、末延芳晴    (敬称略)



 さて、半年前の1月26日午前11時、新宿歌舞伎町の喫茶店「ランブル」の会議室に発起人が集まり、水杯でハンスト・リレーをスタートさせた時は、正直に言って、どこまで続き、何人の人がついてきてくれるか、予測が全く立たず、不安で一杯でした。しかし、一週間たち、二週間たち、一ヶ月、二ヶ月とたつうちに、一般からの参加者も増え、これなら当分続けていけそうだと、少し自信のようなものが出てきました。

 今振り返って見ると、最初のターニング・ポイントは、運動の名称として、「ガンジーの会」と名づけ、「非暴力」による「市民の不承認」運動として、運動の方向性を明確に打ち出したことにあったと思います。その結果、ハンスト参加者のホーム・ページへの積極的、かつ真摯な書き込みが増え、運動の思想的基盤が日に日に強化され、なぜハンストを続けるのかで、参加者の間に共通認識が出来上がり、結果として同志的連帯感が広がっていきました。

 このことは具体的な数字にはっきりと表れており、この半年間で、延べ人数で500人を超える一般市民がハンストに参加し、ホーム・ページへのアクセスの件数は、まもなく1万件を超えようとしています。

 一方、ホーム・ページのBBSへの書き込みはきはめて活発で、内容的にも極めて個性的で、他に例がないほど高い質をキープしています。何より心強いのは、会員が自由に自分の意見を表明し、それに対して別の意見が出されるといった形で、インターネットを介した新しい民主的討議の場が構築されていることでしょう。

 確かに、運動がスタートしてしばらくの間は、発起人と一般参加者の間のコミュニケーションがスムーズに行かず、ギクシャクしたムードが立ち込めたこともありました。しかし、それもお互いがストレートに意見を出し合い、またいわゆる「発起人」と「正会員」、「賛助会員」といった分け隔てをなくし、ハンスト参加者全員を一律に「ガンジーの会会員」としたことで、解消されたと言っていいと思います。さらにまた、こうしたネットを介した運動につき物の、嫌がらせや誹謗・中傷もほとんどありません。参加者全員の真摯な姿勢が、そうした妨害者の進入を防いでいるということなのでしょう。

 運動を振り返って、もう一つターニング・ポイントとなったのは、日本人ジャーナリストとNGO 活動家の三人が、イラクの武装抵抗勢力によって人質として拘束されるという事件が起こった時、「ガンジーの会」として、日本政府とイラクの武装抵抗勢力の両方に向けて、自衛隊の撤退と人質の解放を求める声明を発表し、人質の被害者家族に対しても励ましのメールを送り、同時に15人を超えるメンバーが、24時間の集団ハンストを行ったことでした。このことによって、私たちの会の運動が他の平和運動組織から認知され、リンクの輪を広げることができたように思います。

 ところで、私たちは、ハンスト・リレーを始めた時から、日本人の犠牲者が出ることを恐れていました。そして、橋田信介氏と小川巧太郎氏という二人のフリー・ジャーナリストが武装勢力によって狙撃され、殺害されたことで、私たちの予感は不幸な形で実現してしまいました。この時も、私たちは、二人の勇敢なジャーナリストの死を追悼し、二人の死を招く原因となった自衛隊のイラク派兵を強行した小泉内閣に抗議の意を表すために、声明を発表し、2度目の集団ハンストを行いました。

 さらにまた、韓国人貿易商、金鮮一氏の殺害に際しては、ホーム・ページのトップページに金氏の無念の死を追悼するために、キャンドルを灯し、三度目の集団ハンストを行いました。キャンドルは、金氏だけでなく、橋田氏や小川氏、イラク市民、女性と子供など、イラク戦争の犠牲となったすべての人を追悼するために灯されることになり、現在、「キャンドル・ルーム」には、6本の蝋燭が灯されています。

 「ガンジーの会」では、さらに運動の思想的基盤強化を図るためと、一般市民の運動に対する認知度のアップ、そして会員相互のコミュニケーションを一層緊密化するために、メール・マガジン「ガンジーの村通信」を創刊、毎週3回発行し、レギュラー・コラムニストのエッセイのほか、会員の声も紹介しています。さらにまた、ホーム・ページ上の会誌として『私の中の戦争』を創刊すべく、準備を進めています。これは、戦争を直接的に体験してない世代の戦争体験を、書くことを通して徹底的に掘り下げようという試みで、ネット上の文芸誌として画期的な試みになるものと確信しています。

 以上、半年間の活動を振り返り、「自衛隊のイラク派兵と駐留」に『ノン』を突きつけ、憲法第九条を護持するための非暴力平和運動として長期的にハンスト・リレーを継続させて行けるだけの組織と運動の体制は、一応整ったものと総括していいと思います。

 ただ、当初目的の一つとして揚げた、運動のグラス・ルーツのレベルでの全国的展開という点から見ると、きわめて不満足な結果しか出ていないと言わざるをません。その理由として、以下の点が考えられます。

 (1)一般勤労者にとっては、一日だけとはいえ、24時間食事を抜くことで相当ハードな負担と苦痛を強いられる。

 (2)ハンストという形で、体制に「ノン!」という意志を表示することに対して、市民の間に心理的抵抗感が相当強く定着し、バルブ経済崩壊後の心理的トラウマとして、組織から疎外されることを極度に恐れ、自己規制してしまっている。

 (3)時間の経過とともに、自衛隊のイラク派兵が既成事実化し、何事も忘れやすい日本人の習性とあいまって、無関心層が増えたこと。

 (4)その結果、今更何を言っても、何をやっても無駄だというあきらめムードが国民の間に広がったこと。

 (5)さらにそうしたムードをマスコミ、特にテレビ・メディアがあおっている。

 (6)参院選を前に、北朝鮮拉致被害者家族が急遽帰国したことで、マスコミ報道のターゲットが完全にそちらの方に行ってしまった。

 (7)インターネット介した市民運動のため、インターネットを使わない人たちが、運動の存在を知ったり、情報を得たり、ハンストに参加したリすることができない。

 (8)加えて、これが最大の理由であるが、マスコミ、特に新聞メディアが、こうした市民の抵抗運動に無関心で、一度も私たちの運動を取材し、記事にすることがなかった。

 以上のうち、(8)のマスコミの無関心、あるいは怠慢(ネグリジェンス)の問題は極めて深刻で、半周年に当たる26日、記者会見を開きましたが、結局、取材に来たのは朝日新聞の社会部の記者一人だけでした。その二日前、ホテル・オークラで「九条の会」の発足を記念して、大江健三郎氏や井上久、小田実、加藤周一氏らの講演会が開かれ、これには多数の記者とカメラマンが押し寄せていました。

 しかし、それも、「九条」そのものへの関心より、ノーベル賞作家が講演するからという理由で集まった可能性が強く、事実、翌日の新聞報道を見てみると、紙面としての扱いは小さく、きわめて不満足でした。このように、「九条」改悪、あるいは廃棄の問題を国民的論議の場に乗せる上で、一番大きな障害になっているのが、マスコミの無関心、あるいは意図的無視にあることを、私たちはもっともっと認識し、声を大にして指摘する必要があるでしょう。

 以上を踏まえて、結論として言えることは、運動の形態が、意識が高く、意志の強い小数のメンバーによる、多分に殉教者的意識を背負った、持続型のスタイルに変わってきていること。つまり、運動の方向性が、量的、空間的発展より、質的、時間的持続の方向に転換してきていること、そして、その目的も単に「自衛隊のイラク派兵・駐留」に反対するだけでなく、平和憲法改悪、特に九条廃棄、あるいは改悪の動きを阻止し、永久護持することにまで広がってきているということです。

 そうした意味で、ノーベル賞作家大江健三郎氏や小田実氏、評論家の加藤周一氏らの提案で、「九条の会」が結成・発足したことの意味は大きく、今後こうした平和運動との連携を図りつつ、運動の国民レベルでの発展・浸透に務めていくことが、最大の課題と言っていいでしょう。

 「ガンジーの会」は、さらに半年後の一周年に向けて、新たなスタートを切りました。会の運動が今後も継続し、発展して行けるかどうかは、ひとえに、既にハンストに参加された会員の皆様、これから参加しようと思っている方々、そして外から運動の趣旨に賛同して下っている皆様のサポートにかかっていると思います。どうか、今後ともよろしくお願い申し上げる次第です。



2004年7月31日

              「ガンジーの会」代表:末延芳晴

                       副代表:飯村孝夫




     

  
                                            

 

  a hunger strike reray marathon