末延芳晴

 自衛隊のイラク派遣に対する国民世論は、派遣決定以来、反対意見が賛成意見を大きく上回っています。にもかかわらず、小泉内閣は、十分な議論も説得力のある説明もないまま、派遣を決行しようとしています。
ところが、平和憲法の根本精神が否定されようとしているこの危機的状況にあって、各界のオピニオン・リーダーから明確な反対の声が上がることも、大がかりなデモが行われることもないまま、テレビや新聞の報道を通じて、派遣が既成事実として肯定されようとしています。
こうした状況に対して、かって安保闘争や学園闘争であれほど激しく反対運動が展開されたにもかかわらず、なぜ、今、立ち上がる人がいないのか、疑問を呈する識者も少なくありません。なぜ、日本人はこれほどおとなしくなってしまったのか? いくつか理由が考えられると思います。


 一つは、バブル崩壊後の度重なる経済失政が原因で、一部の恵まれた階層とそうでない階層の分化が著しく進み、裕福で安定した生活を送る階層は状況を肯定し、異議の声をあげようとしないこと。
そして、それとは逆に、大多数の生活の安定と将来への展望を欠き、不安に怯える階層は、異議ありの声を挙げて不利益を被ることを恐れて、敢えて黙視、あるいは無関心の姿勢を取り続けているからです。
第二に、冷戦構造が消滅した結果、社会主義国家の存在を背景としてかっての野党や労働組合のレーゾン・デートルが薄れ、反対勢力を結集できなくなっていること。
第三に、各種スポーツやパソコン、各種ゲーム、携帯電話などが普及した結果、若者、特に大学生の欲求不満が日常的な生活のなかで解消されるようになってしまったこと。
そして最後に、メディア、特にテレビがニュース番組やワイド・ショーでこうしたデモ行為を積極的に取り上げ、何度も繰り返し放映することで、一過性のイヴェントとして、「消費」してしまうこと。
つまり、市民の側の鬱積した不平や不満のガス抜きが不断に行われ、テレビの画面のうえで解消してしまうことが挙げられます。


 こうした閉鎖的状況を打破し、私たちの反対の声を全国的に展開していくために、何か有効な方法が残されているのでしょうか?
従来型の街頭デモや集会など集団的なデモ行為は、一過性のイヴェントとしてメディアに「消費」されてしまうことで、すでに有効な手段とは言えないでしょう。
かといって焼身自殺や著名人によるハンストも、行為の衝撃性の故に反対世論を喚起するうえでは有効な手段といえますが、一般市民が参加できないこと、またこれも話題性の高さの故にメディア向けのイヴェントとして「消費」されてしまいかねず、すでに有効な手段とはいえなくなっています。


 このように考えてきて、私たちが思い付いたのが、リレー式のハンガー・ストライキです。
確かに、私がちが呼び掛け、一般市民がそれに応える形で、それぞれの日常生活に支障をきたさない範囲で、一日ハンストをしてみても、あまりメディアの関心は期待できないかもしれません。
しかし、インターネットを通じて、参加者と賛同者が増え、また派遣に反対意思を表明している識者や著名人が加わり、メディアが報道すれば、運動が全国的に広がっていく可能性が期待できます。
しかもそれが、派遣が終わるまでリレー式につながっていくことで、メディア向けの一過性のイヴェントとして「消費」されにくいという利点もあると思います。
つまり、小泉首相はじめ、派遣推進派にとって、目障りな存在としてしぶとく生き続けることが可能かもしれないということです。


 「断食」は古来、「聖」なる宗教的「行い」として行われてきましたが、その場合、断食者には、相当の覚悟と忍耐と犠牲が要求されてきました。
しかし、家庭や職場で行われる一日断食では、それほど大きな覚悟や忍耐も必要とされず、だれもが気軽に、気が向いたときに参加できるという利点もあります。
また、「聖」なる行為にあやかるという意味で、精神上、かつ健康上の効果も期待でき、まさに一石二鳥、いや三鳥、四鳥の戦術といえます。
さらにまた、飽食の時代にあって、一日食事を抜くことで、私たちの文化のあり方を考え直すという意味でも、意義ある「行い」といえます。


 だがしかし、この戦術の成否は、メディアの報道を通して、ストの存在が広く全国的に知られ、参加者がねずみ算的に増えていくか否かにかかっているといえます。
その意味で、マスコミ各社の皆さまが、ストの趣旨を理解し、事実として国民に知らせるべく、前向きに報道してくださることを発起人一同、心から願う次第です。

                                       
                                              2004年1月26日         





                       
                             
  

 

  a hunger strike reray marathon

今、何故リレー式ハンガー・ストライキなのか?